Amazon オススメ商品

hidew 2010.04.30

#1914 裁判官の国語力は中学生並み?

「被告らは原告に対し 各自90万円を支払え」

友人の連帯保証人になっていた S氏がこのような判決文を受け取った。どのように解釈すべきだろうか。

鎮目恭夫(科学評論家) 法律雑誌『ジェリスト』853号 1986.2

各自90万円だから二人で180万円、ずいぶん値上げした判決だとあきれて、控訴を決意した。そして知り合いの弁護士に相談したら「ああ、その各自というのは連帯してと同じ意味ですよ」と言って、司法研修所編『民事判決起案の手引き』をみせてくれた。

数名の被告が原告に対し連帯債務を負うものと判断した場合、(判決の)主文に『被告らは、原告に対して各自○○円を支払え』と書く場合と、『被告らは、原告に対し、連帯して金○○円を支払え』と書く場合とがあるが、どちらでも差し支えない。前者は、右のような共同訴訟は、ほんらい被告各自に対する請求を併合したもので、したがって判決の主文も、被告ごとに独立したものであり、他の被告との連帯関係のごときは、理論上主文に表示する必要がないという見解によるものである

この通りの悪文で、昔の代官風の言い廻しも含むのはさておき、論理的にみると、判決主文に簡潔のための「連帯して」を書かないのはいいが、そうなら「合計○○円を」とか、単に「○○円を」と書くべきで、「連帯して」の代わりに「各自」と書くのは論理上絶対的な誤りだ。「各自」と「連帯して」の区別をつけない頭では、高校の入学試験でさえ、国語と数学では落第確実だ。

冒頭の判決文を「合わせて90万円」の意味に解釈するのは無理がある。表現と内容が合致しない誤った作文だ。これを「中学生並み」と言ったら、中学生に失礼かもしれない。

鎮目氏の批判に対して、倉田卓次という元判事が逆ギレする。その態度が興味深い。というのも当ブログで繰り返し論争してきた 風の精ルーラ氏 (法律家の卵?)とそっくりだからだ。風の精

自縄自縛。余計な前置き

倉田卓次(元東京高裁判事) 『続・裁判官の書斎』 1990

現職の裁判官当時だったら、時間をつぶして係り合う気にもなれぬアホくさい文章であるが、今はその位の暇はあるし、筆者自身は大まじめに書いているようだから、一応本気で返事しておこう。

司法関係の人は、どうしてこう自縄自縛になるようなことを書き加えるのだろうか。

時間をつぶして係り合う気にもなれぬアホくさい文章と書いてしまったために、「今は暇だから」という余計な言い訳が必要になってしまう。一度そのように評価した文章に本気で必要以上に反論する。コントを見ているようだ。

倉田氏は「裁判実務では『各自』という言葉を『連帯して』という文脈でも使う。いろいろな経緯があってそのようになっている」とごちゃごちゃ言っているが、要するに「裁判実務では誤用が常識」と言っているにすぎず、まったく反論になっていない。

日本語を汚染する法律馬鹿

鎮目氏は、主文というものが債務名義として作られるという一番肝腎なところを全然理解せずに … というより、おそらくそういう問題を何も知らずに(高校の社会科なら教えるだろうから、この人の裁判制度理解は中学生並といえよう) … 判決書を裁判官が被告に出した手紙かなんかのように考えて、その文言を批判しようといきまいてしまったのである。

前半の一番肝腎なところは意味不明。後半は「裁判官が書く判決書は業界用語によって書かれる特殊な文書であり、被告(世間)に意味・情報を伝達するものではない」ということである。

どの業界にも分かりにくい専門用語は存在するが、法曹界は一般的な日本語を意味だけ上書きして使ってしまう。尊大な法律馬鹿が日本語を汚染するなと言いたい。日本語と法曹語を区別するために「各自」→「カクジ」と表記したらどうだろうか。

誇大表現、ヒステリー、逆ギレ

97844692211985 倉田卓次(元東京高裁判事)『続・裁判官の書斎』1990

「鎮目氏の裁判制度理解は中学生並と言えよう」
「自分の常識的用語法と違うからといって、法律家の国語力を疑ったら、疑う人の方が笑われるであろう」
「他人の仕事への謙虚さがあったら .. 裁判官に誤った判決の書き方を得々とお説教して恥をかくという、滑稽な悲惨に堕することは免れたであろうに」


鎮目氏は判決の書き方ではなくて「日本語の書き方」に文句を言っている。裁判制度を理解する以前の問題だ。倉田氏は反論を装うために話を逸らしている。

誇大表現の傾向も風の精ルーラ氏とよく似ている。

「自分がかいた恥」を相手に移し替えて批判する(逆ギレする)パターンは、風の精ルーラ氏との論争でも何回か指摘した 投影 という防衛機制である。「法曹の常識」をごり押しして恥をかいているのは倉田氏だろう。

元ネタ

裁判官の国語力は中学生並み?の元ネタは下記の本。

4469221988 裁判おもしろことば学

  • 大河原 眞美
  • 大修館書店
  • 2009/2/13
  • ¥ 945

一般人の言語感覚からかけ離れた法廷のことばの世界を、本書ではクイズやコラムをまじえてわかりやすく解説。まさに、ことばの“ガラパゴス”ともいうべき、法曹界の実情に迫ります。裁判員、やりたい人もやりたくない人も、この機会に、法廷ことばの世界をのぞいてみては?


*