#1807 TBSドラマ MR.BRAIN は期待はずれ
TBS系で放送中の MR.BRAIN を見た。
セットに金をかけ、話題になりそうな俳優を多数出演させ、視聴率をとりたいという必死な思いだけは伝わってくるが、ストーリーがいまいちで空回りしている。
効果音やセットの感じは、24_-TWENTY_FOUR- に似ている。私は見ていないので分からないが、CSI:科学捜査班 というドラマにはもっと似ているらしい。
木村拓哉が演じる脳科学者の九十九龍介は ガリレオ (福山雅治)のようでもあり、古畑任三郎 (田村正和)のようでもあり、Trick (阿部寛)のようでもある。頭脳明晰な奇人変人、重々しい事件を舞台におとぼけを演じる喜劇を狙っている。しかし、元々軽薄な木村拓哉が軽いキャラを演じても面白くない。古畑任三郎は田村正和が演じるギャップが面白いのである。
「博学で頭が切れる科学者」という役作りにも失敗している。福山雅治が白衣を着て眼鏡をかけるとそれっぽいイメージになるのに、木村拓哉は何をしても木村拓哉だ。ドラマに合わせて役を作るのではなく、キムタクに合わせてドラマを作っているかのような印象さえある。
Van Halen 'Jump' も 菅野祐悟のサントラも、それぞれ良い音楽だと思うが、このドラマの演出に合っているとは思えない。前に挙げた 古畑任三郎 や Trick は軽妙な主人公と 暗くて重いBGM のコントラスト(対比効果)が大きい。MR.BRAIN は軽薄な主人公に、お笑い系の脇役、明るくて高揚感のある音楽、全体が軽い。軽い雰囲気の中で、軽いキャラクタが、軽いボケを演じる。
このドラマにおいて、唯一、緊張感、深刻さを演出するのは「暴力・流血シーン」であるが、一番やらなくていい演出をやりすぎている。むやみやたらに出血する。まるでホラー・スプラッター映画のようだ。
いろいろな点で無駄に頑張った結果、一番疎かにされたのが脚本である。他の刑事ドラマが「犯人の理」「人間の弱さ」を割と丁寧に描くのに対して、このドラマは「特殊な人間が起こした特殊な事件」を題材に、犯人と警察が知恵比べのゲームをする、という皮相的なストーリーに成り下がっている。知恵比べのゲームも陳腐な小細工とご都合主義の連続だ。
仲間由紀恵が犯人役の回では、
- 「人格A → 人格B は記憶が共有されない」という取り調べの結果報告。
- 人格A に「青は一般病棟の入口、赤は隔離病棟の入口」という説明をする。
- 人格B に「一般病棟から出てきてください」と言う。
- 人格B が「青(じつは隔離病棟の入口)」から出てきたところで「多重人格を演じていた」ということにする。
「記憶が共有されない」ということは本人の自供(?)だけでなく、もっと丁寧に検証すべきだし、3 → 4 のプロセスで人格が同一であるという保証もない。なんといってもネタフリが狩野英孝のコントみたいで下手すぎる。わざわざ「青は一般病棟ですよ。 .. 一般病棟から出てきてくださいね」と説明してしまう。「そこに罠がありますよ」と言っているようなものだ。
多重人格を演じるほどの知性をもった人間が、この程度の仕掛けに引っかかるのはなんかおかしい。逆に言えばこの程度の演技なら、もっと早く見抜けるはずだ。「九十九龍介が優秀なのではなくて、周りの人間が無能すぎる」と評した人がいたが、私もその通りだと思う。
喜劇、悲劇、犯罪心理、脳科学、どの要素をとっても中途半端なドラマだが、できの悪さでは徹底している。「つまらない」と言いつつ、こんな長文のレビューを書いてしまうということは、なかなかのドラマなのだろう。いわゆる「スベリ芸」のような面白さはあるかもしれない。
関連
#ドラマに合っているかどうかは別にして、菅野祐悟の音楽はなかなか良い。
BOSS >> MR.BRAIN
同時期に放送されていた BOSS(フジ)天海祐希主演 は面白かった。
雑な部分(日本で一人しか解除できないとされる液化爆弾を電話による伝言だけで解除してしまうなど)もあるけど、犯人と捜査官の心理をしっかり描写している。伏線の張り方も上手い。
天海祐希や竹野内豊に重厚感があるから、笑いの小ネタも生きる。