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Bobby 2005.09.04

#809 「論客子守唄」

「論客子守唄」

音楽を語るとき、論客は「聴く音楽」「鑑賞する音楽」に枠をはめ込む。
「自ら口ずさむ音楽」「自分が歌いたい歌」を、論客は語ろうとしない。
音楽論に「私」を忍び込ませ、自らを語る露悪趣味を論客は好まない。

パッヘルベル、バーバーを愛で、チャイコフスキーを語るとき、
論客の脳裡にあるのは「碁と音楽」といふ抽象的な美しい観念のみ。
和風なら武満徹、山下洋輔、歌い手は五輪真弓、さとう宗幸まで。

決して衒学趣味ではない。誰しもが認める、これぞ「論客の美学」と。
而して誰か知る、そは論客が7枚のベールを被りし仮面の姿なるを。
夜な夜な、論客はジキル博士とハイド氏に密かに変身することを――。

ジキル博士は素面のとき、ハイド氏はもちろん酒が入ったとき。
ジキル博士の論客はワグナーを聴きながら、碁敵への刺客作戦に思いを廻らす。
ハイド氏になった論客は悲しみ、怒り、苦しみ、憂い、嘆きに身を埋没させる。

泣きが入れば「酒と泪と男と女」をがなりたてる。夜明けまで独演で。
〜忘れてしまいたいことや、どうしようもない悲しさに包まれた時に、
論客は一人酒を飲み、酔いつぶれて眠るまで飲んでやがて静かに眠る。

闘犬どもにさんざ噛み付かれた夜に飛び出すのは、論客極めつけの十八番。
〜逃げた相手の大石に未練はないが、お目目欲しがる我が石が可愛い〜。
目いっぱい鼻にかけて転がす小節(こぶし)が冴え渡る「論客子守唄」。