#329 砂漠を流れる川
李昌鎬は実に珍しい人間だ。彼は今のように我を忘れるほどの猛スピードの時代にあって、遅いものが早いものを制圧する特異な姿を見せてくれた。
また、これほど堪え性がなく、ちょっとの退屈にも我慢できないという時代に、彼はまるで砂漠を流れる川のように遠く果てしない忍耐を見せてくれた。
こんなに<囲碁的な>人物がまた現れるだろうか。
「負けを少しでも遅らせるように」は勝負の鉄則だが、「勝ちさえも遅らせるように」するのが、李昌鎬や将棋の大山康晴の勝負哲学である。
李昌鎬の恐るべき点はその忍耐の芸風を十代の若さで身につけていたということにある。