#1842 第34期名人戦 - 井山裕太の鮮烈な強さ
今回の名人戦を観て、井山裕太 のすごさを改めて知ることになる。
対戦相手は張栩名人。日本碁界最強の棋士である。高名な詰碁作家でありヨミが強い。世界でも通用する武闘派だ。
昨年の第33期名人戦 でも同じ組み合わせ(張栩名人VS井山裕太)で、井山裕太は 3-4 にまで肉薄している。しかし、その一勝の違いが大きい。タイトルを取れる人と取れない人の差は、一勝、半目の違いである。昨年の対戦を観て「最後はやはり張栩名人が勝つんだ」と思ったものである。
井山裕太は一年後、再び挑戦者になる。
挑戦者になることはタイトルを防衛するより難しいと言われることもある。連続挑戦というのはそれ自体が偉業だが、井山裕太はそれにとどまらなかった。
井山裕太、囲碁で20歳名人誕生!最年少記録更新 ― スポニチ Sponichi Annex 大阪
囲碁の張栩名人に井山裕太八段が挑戦していた第34期名人戦7番勝負の第5局は14日から静岡県熱海市の「あたみ石亭」で打たれ、15日午後4時48分、176手で井山八段が白番中押し勝ちし、対戦成績4勝1敗で20歳4カ月の最年少名人となった。
井山新名人は「昨年敗れて悔しくて、それを思って1年間戦ってきた。ものすごくうれしい」と初の7大タイトル獲得を喜んだ。
私が一番評価しているのは内容である。とにかく面白い。一手一目何千万円という世界で手が全く萎縮しない。
日本の碁は「戦わずして勝つ」という考えが底流にあって、普段から、守ったり、計算したりが重視される傾向にあるが、井山裕太は剛腕の張栩を相手に延々と戦い続ける。びっくりするようなフリカワリを次々に構想するところはエンターテイナーとしても上手い。もちろん対局相手が張栩だったからこそ面白い戦いになったということもあるだろう。
これだけ派手に打ち回して、最後に勝つというのはなかなか難しい。面白い碁、勝負強い碁を打つ人は珍しくないが、面白く打って結果も残す棋士はなかなか貴重だ。和製李セドルと言ったら褒めすぎだろうか。
盤石と思われた最強者が新世代の旗手にあっさり敗退したという点に関していえば「趙治勲 VS 依田紀基」に近いショックがある。
近年まれに見る鮮烈なタイトル戦だったと思う。
関連
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<担当編集者からのコメント>
2008年9月12日「大和證券杯ネット囲碁グランドチャンピオン戦」の表彰式が東京大手町で開催された。井山裕太八段が優勝を果たし、その表彰式に出席した。工藤紀夫九段からの挨拶が印象的だった。
「井山裕太くんはまだ19歳、日本囲碁界のホープである。師匠の石井邦生九段は1,000局以上もインターネットを使って鍛えたと聞いています。師匠と弟子が1,000局も稽古するとは前代未聞のことだと思います」。
私はとっさに石井九段に近づき、井山裕太の本を出さないかと提案した。スターの存在なくして、その世界の大きな飛躍はない。囲碁界の発展のためにも、井山八段をスターに持ち上げたいと。石井先生は"日本囲碁界のためなら、お断りできないでしょう"と、快諾された。
集英社らしさを出すためにも、巻末で「ヒカルの碁」原作者と井山八段の対談が実現した。ヒカルの秘密と日本囲碁界の問題点も浮き彫りになったと思う。
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