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hidew 2009.06.06

#1793 足利事件の菅家利和さん無罪放免へ

足利事件の菅家受刑者を釈放へ、東京高検が再審容認意見書 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

栃木県足利市で1990年、当時4歳の女児が誘拐・殺害された「足利事件」で無期懲役が確定した菅家利和受刑者(62)が申し立てた再審請求で、東京高検は4日、即時抗告審で実施されたDNA鑑定の結果について、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たる」とする意見書を東京高裁に提出した。
菅家さんは同日、刑の執行を停止され、千葉刑務所から釈放される。菅家さんの逮捕から約17年を経て、再審が開始され、無罪が確定する見通し。

最初のDNA鑑定でクロと出てしまった点は不運であるが、弁護人の求めに応じて再鑑定をすることはできたはずで、もっと早く無罪放免されなければならなかった。

検察が当然行うべきだった証拠の補強、再検証を怠った理由は何か。

「再鑑定するのが面倒だから」という不作為ではなく「菅家さんが無実だということを薄々感じつつ、犯人に仕立て上げてしまえ」という作為があったのではないか。

冤罪事件に共通する問題として、警察や検察の「真相究明よりも、犯人検挙が大事」という姿勢がある。ヤクザと見紛うやり方で虚偽の自白を強要し、都合の悪い証拠が出ないように各方面を押さえつける。犯人 が見つかれば真相などどうでもよくなってしまう。

最善の捜査を尽くした結果、それでもなお冤罪が発生してしまうのではなく、警察や検察が(素人でも分かる重大な疑義を意図的にスルーして)わざわざ冤罪を作っている。見て見ぬふりをする裁判所も同じ穴の狢だ。

裁判員制度というのは、どうしようもなくなった司法制度に風穴を開けるための苦肉の策だろうが、ヤクザのような人たちを相手に「捜査・鑑定に疑問がある」などと言えるものかどうか、心配になってくる。

関連

足利事件

【麻生ぶら下がり】足利事件「可視化で冤罪が減るという感じがありません」

麻生首相「そうですね。今回の場合はDNAの鑑定っていうのが大きな決め手になったんだと思いますけども、昔のDNA鑑定の、いわゆる科学的なレベルと今のレベルとは全然、倍率がまったく違うことになってるんで、そういったケースもあるかと思いますが、これ一概に一般論として答えるのは難しいです」

  • この件を受けて、冤罪防止のために、さらなる取り調べの可視化を求める議論が強まると思うが、首相の考えは

麻生首相「可視化にしたからといって、途端にそれがよくなるという感じはありません」

こんな他人事でいいのだろうか。麻生首相はこの件に関して全く何も考えていないことがよく分かる。

取り調べ室の雰囲気を疑似体験できる映像。

YouTube - ヤクザVS警察(関西で見慣れた光景)
http://www.youtube.com/watch?v=glv_xJDzNqg

菅家利和さんの取り調べは髪の毛をつかまれたとか、足を蹴られたと言っているから、もっとひどかったはず。

ミランダ警告 - Wikipedia

ミランダ警告(Miranda warning)とは、アメリカ合衆国において、後述する4項目の告知が被疑者に対してされていない状態での供述は、公判で証拠として用いる事が出来ないとする原則である。

  1. あなたには黙秘権がある
  2. 供述は、法廷であなたに不利な証拠として用いられる事がある
  3. あなたは弁護士の立会いを求める権利がある
  4. もし自分で弁護士に依頼する経済力がなければ、公選弁護人を付けてもらう権利がある

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hidew 2009.06.06 [1]

DNA鑑定に振り回される

DNA鑑定で着せられた罪を晴らしたのはDNA鑑定 | 科学技術のアネクドート

菅谷さんを無実の罪で17年間、服役させた要因はDNA鑑定の結果でした。
菅谷さんを服役から解き放ったのもDNA鑑定の結果でした。

検察や裁判所が科学を恣意的に扱ったことが悲劇の原因である。

科学とは「仮説と検証」の繰り返し。

hidew 2009.06.07 [2]

死刑存置とは「間違って殺しても仕方ない」ということ

死刑存置とは「間違って殺しても仕方ない」ということ - good2nd

菅家さんのケースが提起しているのは単に DNA 鑑定の精度といったテクニカルな問題だけではありません。警察の捜査のありかた、可視化や代用監獄の問題といった構造的な問題と同時に、人間のやることに間違いは必ずあるという原理的な問題でもあると思います。

hidew 2009.06.09 [3]

被疑者取調べ要領

愛媛県警の「被疑者取調べ要領」

  • 粘りと執念を持って「絶対に落とす」という気迫が必要
  • 調べ室に入ったら自供させるまで出るな。
  • 否認被疑者は朝から晩まで調べ室に出して調べよ。(被疑者を弱らせる意味もある)

なにもやっていない時にこんな取り調べをやられても困るpng 1183 byte

hidew 2009.06.13 [4]

「無罪の推定」分かりやすい模式図

裁判員制度と企業の労務管理セミナー: 夜明け前の独り言 水口洋介

被告人・弁護側と、検察官を天秤にのせて、どっちの言い分が正しいかを考えるというのでは無罪の推定ではありません。最初から、被告人が無罪というように天秤は傾いています。他方の天秤に検察官が正しい証拠を積み重ねていき、被告人・弁護人が批判をしても、十分な重さがあるかどうかを見極めるのが裁判員の仕事というわけです。

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hidew 2009.10.22 [5]

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きゃぶ 2010.03.29 [6]

振り上げた拳

#1909論戦は、一段落したでしょうか…

ブログトップページにちょうど「足利事件」記事が浮かんでいたので、これについてご意見を。

「自白の心理学」(浜田寿美男著、岩波新書)を10年前に読んでから、この類の話に強い関心を持ってきました。(下の書評にも既に含まれているかも)。
内容については各方面から論じ尽くされているでしょうからここでは触れませんが、以前から引っかかっていたことの中に、「被害者(この場合はパチンコ店から行方不明になった女児)の遺族コメント」があります。

真犯人がスガヤ・トシカズだったか否かに関わりなく「だれかに娘を殺された」という事実に変化はないのですから、遺族がその悔しさをどこかにぶつけたいという思いを持ってしまうのは致し方ありませんが、それ(コメント)を「菅谷氏、無罪確定!」の記事に無理やりネじ込んでくるマスコミ、というのが「???」
事情を知らない人がここだけ目にしたら、「きっとアイツがやったに決まってるのに裁判で断罪しそこなって、ヌケヌケと逃げ切られた…」という印象を受けそうです。もしかしたら執筆者もそう信じていたのでは、とすら感じられる。

“振り上げた拳の下ろしどころを失っている遺族”にインタビューしてわざわざ記事にすることに何の意味がある?と長年、思ってきたのですが…。

冤罪は司法制度のみならず、報道についても問題を投げかけますね。

hidew 2010.03.29 [7]

冤罪、もうひとつの罪

.. 遺族がその悔しさをどこかにぶつけたいという思いを持ってしまうのは致し方ありませんが、それ(コメント)を「菅谷氏、無罪確定!」の記事に無理やりネじ込んでくるマスコミ、というのが「???」

これだけでは何の話か分かりません。報道機関名も記者名も日付も全て不明です。

一般論として、冤罪のもうひとつの罪である「真犯人を逃した」という点に言及するのは妥当です。真犯人というのは菅谷氏のことではありません。

“振り上げた拳の下ろしどころを失っている遺族”にインタビューしてわざわざ記事にすることに何の意味がある?

「(菅谷氏無罪は)足利事件の終わりではない」というメッセージだと思います。

きゃぶ 2010.03.30 [8]

テクノロジー以前の問題

DNA云々以前の問題

記事・放送の確認不足は手抜かりでした。確かに出典は大事ですね、後ほど付記します。

ただ、
遺族のやり場のない怒りコメント → じゃ真犯人はどこ行った?
と純粋に展開する方向に行くとは限らず、むしろ(人違いであろうとなかろうと)「憎きアイツに厳罰を!」「被告が断罪されたことをあのコの墓前に報告できて嬉しい」みたいな、極めてワイドショー的方向に流れやすいのも現実ですね。
すっかり終わってみたら、時効はとっくに過ぎていて、真犯人探しにはもう手遅れ。これじゃいくら「足利事件はまだ終わってはいない」と発信しても、法的には手の出しようがない。

つい最近、やはりDNA絡みの誤認逮捕が報道されました(朝日3/20夕刊・「神奈川県警、検体取り違え?」。ちなみに私の住む地域では400字弱のベタ記事扱い。菅谷さんとは大違い)。原因は単純、検体のラベリング・ミス。どこででも起こりうることです。
幸い被疑者がガンとして譲らなかったので、本人から改めて検体を採り直して潔白が判明しましたが、この人が気の弱い性格だったら、第二の菅谷氏が生まれていても不思議はない。
「ヘンだと思ったらその場で本人の新鮮なDNAを採る」なんて基本のキですぐ出来るし、その方が騒ぎも小さくて済む。シロートでも考え付きそうなものなのに…。

捜査員たちには全員、「一度は被疑者体験をしてもらう」…すぐにでも実行できませんかね。

hidew 2010.03.31 [9]

相手の立場を考える

捜査員たちには全員、「一度は被疑者体験をしてもらう」…すぐにでも実行できませんかね。

それは思考実験として重要な視点ですね。(#1465 立場交換)

捜査・司法関係者にありがちな「自分たちのメンツだけが大事」という醜悪な行動パターンが、テクノロジー以前に冤罪を生む原因になっています。裁判官や捜査員に「被疑者の立場を考える」「虚心坦懐に真実を追う」という知性があれば、冤罪の何割かは防げるはずです。「法律馬鹿が科学を盲信した」というよりはもっと単純で根深い問題があります。

体験がなくても想像や共感によって、被疑者を慮ることは可能です。逆にそのような知性を持たない人間が「濡れ衣体験」をしても、取り調べに生かすことはできないと思います。(関連 #1603 世の中には二種類の人間…)

自己愛人間は「その場で自分にとって都合の良いことを場当たり的に主張するだけ」です。被疑者の立場になれば、今度は捜査員の立場が全く見えなくなって「許容範囲内の取り調べ」に対しても痛罵することになるでしょう。

  • 被疑者・被告(濡れ衣を含む)
  • 捜査・司法関係者
  • 犯罪被害者

規範の一貫性と、どの立場に立っても「仕方ない」と思えるだけのバランス感覚が必要です。「犯人役を仕立て上げて、表面上決着させる」という捜査関係者のやり方は、自分が「無実で被疑者」の立場に立ったとき到底容認できるものではありません。また「冤罪は絶対にゼロにしろ」というのは、捜査員の立場に立ったとき、無理があります。

きゃぶ 2010.03.31 [10]

渡りに舟

レス(#1793-9 )が入る直前に「立場交換」と「ガキは熱いうちに打て」を見たばっかりだったので、あまりのタイミングの良さにビックリ!(笑)

いいサイトを紹介して下さってありがとうございました。

hidew 2010.04.01 [11]

参考図書

4023304514 冤罪 ある日、私は犯人にされた

  • 菅家利和
  • 朝日新聞出版

なぜ殺人犯に仕立て上げられたのか。そしていかに救いだされたのか。その逮捕の瞬間から、生い立ち、取調べの様子、刑務所での過酷な暮らしを克明に綴る。絶望と希望、正義と自由を求めた闘いの凄絶な記録。釈放後初の独占手記。


479421023X 幼稚園バス運転手は幼女を殺したか

  • 小林篤
  • 草思社

目撃者はなかった。物証もなかった。証拠は唯一DNA鑑定の結果だけだった。だが、当時導入されたばかりの鑑定法には疑問をもつ者も多かった。さらに、辻褄の合わない供述、犯人であることを前提とした精神鑑定等、この事件にはあまりにも多くの疑問が解かれぬままに浮遊していた。DNAが捕らえた男は、ほんとうに真犯人だったのか。6年以上にわたった精緻な取材をもとに、事件の驚くべき真相に肉薄する。


400430721X 自白の心理学

  • 浜田 寿美男
  • 岩波新書 (新書)

身に覚えのない犯罪を自白する。そんなことはありうるのだろうか? しかもいったんなされた自白は、司法の場で限りない重みを持つ。心理学の立場から冤罪事件に関わってきた著者が、甲山事件、仁保事件など、自白が大きな争点になった事件の取調べ過程を細かに分析し、「自分に不利なうそ」をつくに至る心のメカニズムを検証する。


4582852262 取調室の心理学

  • 浜田 寿美男
  • 平凡社新書

本書で扱うのは「冤罪の過ち」である。なぜ被疑者・被告人はやってもいないことを「やった」と言ってしまうのだろうか。なぜ私たちはその「嘘」を見抜けないのだろうか。「過ちの現場」となる取調室で何が起こっているのだろうか。心理学者として供術証拠の真偽を鑑定してきた著者が探る「取調室の謎」と「過ちの構造」。


4121018478 証言の心理学―記憶を信じる、記憶を疑う

  • 中公新書
  • 高木 光太郎

人は嘘をつこうとしていないのに、体験していない出来事を見たり聞いたりしたと証言してしまうことがある。証言の聴き手が、それと気づかないうちに虚偽の証言や自白を生み出す手助けをしてしまうこともある。人間の記憶は脆く、他者の記憶とのネットワークによって成立している。これを法廷という非日常の「現場」に生かすことは果たしてできるのか。興味深い実例を交え、心理学研究の最前線をわかりやすく説明する。


4535516642 なぜ無実の人が自白するのか―DNA鑑定は告発する

  • スティーヴン・A. ドリズィン, リチャード・A. レオ
  • 日本評論社, 2008, 単行本

ミランダ原則は死んだのか? DNAの光に映し出された125の誤判例、そして電気椅子から生還した9人の男たち。取調官の心理的誘導の中で人は簡単に虚偽の自白をする。代用監獄での23日間の拘置・取調べを基礎に有罪率99.9%を誇る日本。ミランダ原則下のアメリカでこれほど誤判があるとすれば、日本での誤判率はいかほどか。正しい裁判のためには取り調べ過程の完全な録画化しかないという本書の到達点は、アメリカの趨勢でもある。


4846106039 DNA鑑定―科学の名による冤罪

  • 天笠啓祐
  • 緑風出版

犯罪捜査の切り札として、DNA鑑定がマスコミ等で盛んな賞賛を浴びている。「100万人の中から1人を識別できる」と言われる高度な識別能力は「科学的」であり、かつ揺るぎようのない真実であるとして広く受け入れられようとしている。しかし、DNA鑑定は、けっして個人を特定できるような方法ではなく、また統計的な作為をもって鑑定結果が出される場合もある。とりわけ問題なのは、人権感覚に乏しい日本の警察が「科学」としてふりかざすとき、数多くの冤罪が生み出されていることである―。本書はDNA鑑定の実態を明らかにし、その汎用化に大きな疑問符を投げかける。


4061491458 冤罪はこうして作られる

  • 講談社現代新書
  • 小田中 聰樹

無実の罪を生み出す刑事司法の構造的欠陥。ある日突然に「犯人」にされる恐怖。見込み捜査、別件逮捕、代用監獄から、裁判官への統制、弁護人の無力化まで、冤罪を生み出す刑事司法の構造的欠陥に迫る。
無実の者が、ある日突然に「犯人」にされる。警察はなぜ「犯人」を作り出すのか。裁判官はなぜウソを見抜けないのか。今も冤罪を生み続けている日本の刑事司法の構造的欠陥をえぐる。


4004308097 裁判官はなぜ誤るのか

  • 秋山 賢三
  • 岩波新書

もし、裁判官の判断に誤りがあったら。人の一生を左右する誤判、冤罪の背景には何があるのか。判事として再審請求事件に向き合った経験をもつ著者が、裁判官の日常生活やキャリアシステムの問題点を指摘し、さらに法曹一元化、陪審・参審制度などの司法改革が議論されている今日、裁判が市民のものになるには何が必要かを提言する。


きゃぶ 2010.04.01 [12]

おお~っ!

ありがとうございます。早速、片っぱしから借りて(?)読んでみます。
著者の皆様、印税にご協力できなくてスミマセン…m(__)m。

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