#1703 赤塚不二夫の葬儀 - タモリの弔辞
弔辞というのは、式辞の中でもとくに表現が難しく、定型文を並べて無難にまとめられることが多いのだけど、赤塚不二夫の葬儀でタモリが読んだ弔辞は、とても印象的だった。
マージャンをするときも、相手の振り込みで上がると相手が機嫌を悪くするのを恐れて、ツモでしか上がりませんでした。
麻雀のゲーム性を根底から覆している。親しい知人に対してまで接待麻雀みたいな打ち方をするのは共感できないが、それが、赤塚不二夫という人なのだろう。
そういえば私が麻雀を覚えたのは「ニャロメのおもしろ麻雀入門」という本だった。同じニャロメシリーズに「ニャロメのおかしなおかしな囲碁格言」という本もある。残念なことにどちらもかなり前に手放してしまった。
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ニャロメのおもしろ麻雀入門
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ニャロメのおかしなおかしな囲碁格言
あなたは生活すべてがギャグでした。
この一文にはドキッとさせられる。
バカ、アホが賛辞になる世界でも、極めて特殊な人にしか言えない台詞である。
あなたの考えは、すべての出来事、存在をあるがままに、前向きに肯定し、受け入れることです。.. この考えをあなたは見事に一言で言い表しています。すなわち『これでいいのだ』と。''
『これでいいのだ』の神髄をこの短い文章の中で説明したタモリも見事だった。
私はあなたに生前お世話になりながら、一言もお礼を言ったことがありません。
一瞬「なんで?」と思うが、理由を聞いて大いに納得した。この部分が赤塚不二夫とタモリの尋常ではない関係を表している。
私もあなたの数多くの作品の一つです。
名言。
親子でもなく、師弟でもなく、それでも自他共に「タモリを創ったのは赤塚不二夫だ」と認められるのだから、本当に不思議な人たちである。
全文
赤塚不二夫さん葬儀 タモリさんの弔辞全文(産経新聞) - Yahoo!ニュース
赤塚先生は本当に優しい方です。シャイな方です。マージャンをするときも、相手の振り込みで上がると相手が機嫌を悪くするのを恐れて、ツモでしか上がりませんでした。あなたがマージャンで勝ったところをみたことがありません。その裏には強烈な反骨精神もありました。あなたはすべての人を快く受け入れました。そのためにだまされたことも数々あります。金銭的にも大きな打撃を受けたこともあります。しかしあなたから、後悔の言葉や、相手を恨む言葉を聞いたことがありません。
あなたは私の父のようであり、兄のようであり、そして時折みせるあの底抜けに無邪気な笑顔ははるか年下の弟のようでもありました。あなたは生活すべてがギャグでした。たこちゃん(たこ八郎さん)の葬儀のときに、大きく笑いながらも目からぼろぼろと涙がこぼれ落ち、出棺のときたこちゃんの額をピシャリと叩いては『このやろう逝きやがった』とまた高笑いしながら、大きな涙を流してました。あなたはギャグによって物事を動かしていったのです。
あなたの考えは、すべての出来事、存在をあるがままに、前向きに肯定し、受け入れることです。それによって人間は重苦しい陰の世界から解放され、軽やかになり、また時間は前後関係を断ち放たれて、その時その場が異様に明るく感じられます。この考えをあなたは見事に一言で言い表しています。すなわち『これでいいのだ』と。
いま、2人で過ごしたいろんな出来事が、場面が思い出されています。軽井沢で過ごした何度かの正月、伊豆での正月、そして海外でのあの珍道中。どれもが本当にこんな楽しいことがあっていいのかと思うばかりのすばらしい時間でした。最後になったのが京都五山の送り火です。あのときのあなたの柔和な笑顔は、お互いの労をねぎらっているようで、一生忘れることができません。
あなたは今この会場のどこか片隅に、ちょっと高いところから、あぐらをかいて、肘をつき、ニコニコと眺めていることでしょう。そして私に『お前もお笑いやってるなら、弔辞で笑わせてみろ』と言っているに違いありません。あなたにとって、死も一つのギャグなのかもしれません。私は人生で初めて読む弔辞があなたへのものとは夢想だにしませんでした。
私はあなたに生前お世話になりながら、一言もお礼を言ったことがありません。それは肉親以上の関係であるあなたとの間に、お礼を言うときに漂う他人行儀な雰囲気がたまらなかったのです。あなたも同じ考えだということを、他人を通じて知りました。しかし、今お礼を言わさせていただきます。赤塚先生、本当にお世話になりました。ありがとうございました。私もあなたの数多くの作品の一つです。
合掌。
平成20年8月7日、森田一義
※強調は引用者
関連
YouTube - タモリ 赤塚不二夫さんへ 弔辞
http://jp.youtube.com/watch?v=yU83Nhuub6k
弔辞の比較 - レジデント初期研修用資料
http://medt00lz.s59.xrea.com/wp/archives/92
新聞社によって文章の表現が異なるらしい。テープ起こしの編集は最小限にしてほしいな。
タモリの手には白紙
衝撃の事実。