#1520 今野勉『テレビの嘘を見破る』(新潮社新書)
作り手の作意=工夫の諸例
- 母子象のCM - 子象が水中に落下する瞬間、母象が鼻で子象を助け上げる。実際には別々の像の映像を切り貼り。
- インタビュー録画 - インタビュアーが頷くシーンはインタビュー終了後に再撮影。(カメラを一台で済ませるため)
- ドキュメンタリーのバスの撮影 - 目的地に行く車窓の映像は、実際には撮影終了後の帰路で撮影。
- 料理の地方取材 - 1週間かかる薫製の取材を1週間後に再び訪れたように見せて、実は1日で撮影。
- 北極グマの撮影 - 北極グマを「撮影するカメラマンを撮影」するシーンは実際には別の場所で改めて撮られた。
- 幻の魚釣り紀行 - 初日に釣れた幻の魚を、最終日に釣れたように編集。
- 橋から川へ飛び込む通過儀礼を迎えた少年 - 事前に企画された撮影を、たまたま偶然通りがかったように演技。
- カワセミの獲物狩り - カワセミが飛び込む決定的瞬間は、カワセミが飛び込む池を作って撮影。
- ホスピス病棟で関係性を撮る - 望郷のシーンはディレクターの誘導とナレーションによって演出された。
私は全て許容の範囲内である。予算と時間が限られていれば何か工夫するしかない。
2) はちょっと意外だった。インタビューなんて安い機材を2台使って固定アングルで撮れば良さそうな気がする。
3) 4) は冷静に作り手の立場で考えると分かるが、視聴者の立場ではあっさり見過ごしてしまいそうだ。
その他の要旨メモ
- 作り手の見る側の共犯関係
- 感動や面白さの安売り、安買い
- やらせ、再現、誇張、歪曲、虚偽、捏造
- 「プロセスの記録」か「典型の記録」か
- 「あるがままの事実」と「もうひとつの事実」
キーワード
メディア・リテラシー、テレビの文法、
関係性の開示/作品の自立性
禁断の王国ムスタン、田原総一郎、石川好、
華氏911、ガチンコ!ファイトクラブ、川口浩探検隊
進め!電波少年、はじめてのおつかい、
まとめ
「あるある大事典」の捏造はあまりにお粗末で番組そのものは許容できないが、現場の人を責める気にもならない。
某所で話題になっていた「歪曲棒グラフ」も、数学的にはめちゃくちゃだが、テレビの制作現場が切羽詰まっている様子が伝わってくる。
有意なデータ(あるいはインパクトのある映像)が得られなかったときに「失敗でした」「何もありませんでした」と言えない現場の辛さ。自分がそのような立場に置かれたら「あるある捏造」も「棒グラフ歪曲」もやってしまいそうだ。
本書は「テレビの嘘を見破り」つつも、それを生暖かく見守るという立場で書かれている。内情を知れば知るほど嘘に対して寛容にならざるをえないだろう。