#1122 モヒカン族の最後
世界は大ニュースに湧いた。6カ国協議が急転直下、完全合意に達したのだ。陰に知恵者がいた。「東アジア一帯の小さな揉め事をあれこれいじり回すより、暗黙の了解の中で互いに棲み分けしている我々とは決して相容れない共通の敵がいるではないか。今こそ小さな国利・国益を捨てて大同団結すべきだ」と炊きつけたらしい。
協議に明け暮れていた6カ国の面々はふと我に返り、自分たちが生を営む社会を「ムラ社会」と決め付け、情に流され論理を持たず近代的思想についていけない烏合の衆と貶めている“ウザイ奴ら”の存在に気付く。刹那の感情を貫くジュンちゃんを抱え込むブッシュ族、それにラスプーチン、将軍様、中韓首脳の面々は、ソクラテスの昔以来営々と命脈を保ってきたモヒカン族こそ獅子身中の虫、直ちに殲滅すべしと大連合軍を結成した。
連合軍の包囲網が狭められていくモヒカン族の最後の砦は青葉山頂。リーダーは国籍不明のhidew。ムラ社会の連中が最も認めたがらなかった「“教えて君”の集合」であることを立証してカッとさせ、日頃からムラ社会のありようを疑問視してきた理系有志の魂を一気につかんだ若き論客である。
決戦前夜、世界各国から集い来たるシンパを前に論客は静かに諭す。「皆さんありがとう。犠牲になるのは私だけでいい。すぐに山を下りなさい」。真っ先に退場したのはモヒカン族を国粋主義者の集まりと勘違いしたカドー氏。彼は活動の内容より言葉遣いや服装ばかりに目を奪われ、むしろモヒカン族の行動を阻害するばかりだった。北陸から駆けつけたOsama先生も唐突に姿を消した。“論客の呪文”に引き寄せられて集まった数多の美女連も涙をこらえて山を去る。
取り残された論客の最後の参謀は「センドリ打ち碁集」。絢香の「I believe」を聴きながら論客は静かに剣を研ぐ。誰か知る、論客の頬を伝う一滴の涙を。
決戦の朝、論客はひとり古戦場の広瀬川に赴く。風は蕭々として川を渡り、論客ひとたび往きてまた還らず。